
かつては数十万円で買えたバイクが、今では数百万円。
カワサキZ1やZ2をはじめ、1970年代の日本製バイクは、今や高額なコレクターズアイテムになっています。 しかし、昔から高かったわけではありません。 1990年頃、カリフォルニアでは状態の良いZ1が3,000〜4,000ドルほどで買い付けられ、日本では整備後に60万〜70万円程度で販売されていました。 では、なぜこれほど高くなったのでしょうか? その背景には、1980年代から始まった日本のバイク文化の変化がありました。
1980年代、「速さ」から「格好よさ」へ
1980年代の日本は、レーサーレプリカ全盛期。 ホンダNSRやヤマハTZRなど、各メーカーが性能を競い合っていた時代です。 ところが、その一方で、昔ながらのバイクに魅力を感じる人たちもいました。 丸いヘッドライト、むき出しの空冷エンジン、クロームメッキのフェンダー。 最新の性能より、バイクらしい姿や雰囲気を楽しみたい。 そんな価値観が、かつてのZ1やZ2を再評価するきっかけになっていきます。
漫画『あいつとララバイ』がZ2への憧れを生んだ
1982年に連載が始まった、楠みちはる氏の漫画『あいつとララバイ』。 主人公・菱木研二の愛車として登場したのが、カワサキZ2でした。 すでに旧型車となっていたZ2ですが、作品の中では圧倒的な存在感を放ち、多くの読者に強い印象を残しました。 単なる古い中古バイクではなく、いつか乗ってみたい憧れの一台へ。 漫画は、Z2の人気を支える大きな要素の一つになったのです。
1989年、ゼファーがネイキッドブームを巻き起こす
1989年、カワサキからゼファー400が登場します。 当時の高性能路線とは一線を画した、空冷4気筒のシンプルなネイキッドモデル。 ゼファーは大ヒットし、1990年代のネイキッドブームを牽引しました。 そして、そのデザインの原点ともいえるZ1やZ2にも注目が集まります。 新しいバイクが、古いバイクの魅力を再発見させる。 そんな興味深い現象が起きたのです。
1997年、『GTO』がZ2の魅力を新たな世代へ
1997年に連載が始まった藤沢とおる氏の漫画『GTO』。 主人公・鬼塚英吉の愛車として登場したのも、カワサキZ2でした。 1998年には反町隆史さん主演でテレビドラマ化され、大ヒット。 型破りな教師・鬼塚英吉のキャラクターとともに、Zシリーズの存在がバイクに詳しくない人にも知られるきっかけとなりました。 『あいつとララバイ』が1980年代にZ2への憧れを育て、『GTO』が1990年代後半にその魅力を新たな世代へ伝えた。 漫画やテレビという大衆文化も、旧車人気を支える重要な役割を果たしていたのです。
1990年代、アメリカからZ1が日本へ帰ってきた
人気が高まる一方、日本国内でZ1を見つけるのは簡単ではありませんでした。 そもそもZ1は海外市場向けに開発されたバイクです。 そこで注目されたのが、アメリカからの逆輸入でした。 旧車専門店「絶版ウエマツ」の関係者によると、1990年頃はカリフォルニアでZ1を3,000〜4,000ドル程度で買い付け、日本へ輸出していたそうです。 需要が盛んだった時期には、大量の旧車をコンテナに積んで日本へ送り出していました。 アメリカの道路を走っていた日本製バイクが、何十年もの時を経て日本へ戻ってくる。 海外からの逆輸入は、日本の旧車ブームを支える重要な役割を果たしたのです。
2000年代以降、人気と希少性が価格を押し上げた
旧車人気が定着する一方で、良い状態の車両は次第に少なくなっていきます。 生産終了から何十年も経てば、事故や腐食、解体などで現存台数は減少します。 特に、オリジナル塗装や当時の部品が残る車両は貴重な存在になりました。 さらに、若い頃にZ1やZ2に憧れた世代が、経済的な余裕を得て購入するようになります。 需要はあるのに、良い車両は増えない。 この需給の変化が、長期的な価格上昇につながりました。
2021年、コロナ禍で価格がさらに高騰
旧車の価格は、コロナ禍以前から上昇していました。 バイク王の市場分析によると、人気旧車は2005年頃から値上がりし、2013〜2014年頃にもう一段上昇。そして2021年には急激な高騰が見られました。 コロナ禍によるバイク需要の拡大や、新車の供給不足などが重なったためです。 ただし、すべての旧車が同じように値上がりしたわけではありません。 人気、希少性、コンディションによって、その価値には大きな差があります。
それでも、旧車の価値は値段だけではない
今では数百万円で取引されることもあるZ1やZ2。 しかし、価格が高いからといって、必ずしも良いバイクとは限りません。 丁寧に乗り継がれてきたオリジナル車両。美しく仕上げられたレストア車。長年の使用によって独特の風合いを持つ一台。 それぞれに異なる魅力があります。 50年前のエンジンが、今も力強く回る。 当時のデザインが、今見ても格好いい。 そして、次のオーナーへ受け継がれていく。 そんな魅力があるからこそ、旧車は今も多くの人を惹きつけるのでしょう。 Mile One Garageでは、カリフォルニアと東京を拠点に、絶版車・旧車・逆輸入バイクを一台ずつ確認し、次のオーナーへつなぐ活動をしています。 時代を超えて愛される一台を、次のオーナーへ。
まだ、走りたい道がある。
Mile One Garage — California / Tokyo
参考資料
webオートバイ:絶版ウエマツ・旧車輸入の歴史
webオートバイ:ゼファー開発者インタビュー
モーサイ:『GTO』鬼塚英吉とカワサキZ2
バイク王:旧車・絶版車の市場動向
写真:SG2012, “Kawasaki Z900 (1973)”, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons. https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Kawasaki_Z900_(1973).jpg License: https://creativecommons.org/licenses/by/2.0/
