ホーム / Journal

WR450Fには「2輪駆動」の時代があった、ヤマハが育てた本気のエンデューロ

WR450Fは、どこから来たのか

Yamaha WR450F。 450ccの4ストローク単気筒エンジンを搭載した、本格的なエンデューロモデルです。 その歴史をたどると、WR450Fだけを見ていては分からない、ヤマハの4ストローク・オフロードマシンの挑戦が見えてきます。 ルーツのひとつとなったのが、1997年に発表されたYZ400FとWR400Fです。 ヤマハはYZ400Fを市販4ストロークモトクロッサーとして開発し、そのYZ400Fをベースにエンデューロ競技向けへ変更したモデルとしてWR400Fを発表しました。

同じオフロードでも、モトクロスとエンデューロは違う

WR400Fでは、YZ400Fから単純に外装を変えただけではありませんでした。 エンデューロで必要となる走破性や耐久性に合わせて、ワイドレシオのトランスミッション、大容量燃料タンク、18インチのリアホイール、ヘッドライト、テールライト、トリップメーター、サイドスタンドなどが与えられていました。 短時間で速さを競うモトクロスと、長時間にわたり変化する路面を走るエンデューロ。 似ているように見える2台ですが、求められる性格は違います。 この「レーサーの性能を、長く走れるエンデューロへ作り替える」という考え方が、後のWR450Fにもつながっていきます。

2003年、WR450Fは6日間のレースを制した

WR450Fの実力を示す興味深い記録があります。 2003年、モトクロス世界王者のステファン・エバーツがWR450FでInternational Six Days Enduro、通称ISDEに参戦しました。 ISDEはその名の通り、6日間にわたって行われるエンデューロ競技です。 ヤマハの公式記録によると、エバーツはWR450Fを駆り、この大会で総合優勝を果たしました。 しかも本人はレース後、 初めてのエンデューロレースで優勝できてとてもうれしい。 とコメントしています。 世界トップクラスのモトクロスライダーが、初めて挑んだエンデューロでWR450Fに乗り、6日間を戦って勝った。 WR450Fの性格を知るうえで、かなり象徴的な出来事です。

そしてWR450Fは、前輪まで駆動した

WR450Fの歴史で特に面白いのが、2004年のダカール・ラリーです。 このときヤマハは、通常のWR450Fとは大きく異なるマシンを投入しました。 その名は、 WR450F 2-Trac 名前の通り、2輪駆動です。 バイクは通常、エンジンの力で後輪だけを駆動します。 ところがWR450F 2-Tracには、ヤマハとÖhlinsが共同開発したシステムが搭載され、後輪のスリップ量に応じて油圧によって前輪にも駆動力を伝える仕組みが採用されていました。 つまり、WR450Fの前輪がただ転がっていたわけではありません。 必要な場面では、前輪もバイクを前へ進める側に回っていたのです。

450ccで、660ccや950ccを相手にする

さらに面白いのは、その結果です。 2004年のダカール・ラリーは18日間、11,000kmを超える長丁場となりました。 WR450F 2-Tracを駆ったダビッド・フレティーネは450ccクラスで優勝。 総合でも7位に入りました。 さらにヤマハの記録では、3つのステージで660ccや950ccの大排気量マシンを抑えてトップでゴールしています。 翌2005年にもWR450F 2-Tracはダカールへ参戦。 フレティーネは総合5位、450ccクラス優勝という成績を残しました。 WR450Fという名前から、林道を走る450ccのオフロード車を想像する人もいるかもしれません。 しかし、その名前を持つマシンは、かつて2輪駆動でダカールを走っていたのです。

2WDだけがWR450Fの実績ではない

興味深いのは、WR450Fのダカールでの実績が2-Tracだけではないことです。 2009年のダカールでは、通常の後輪駆動WR450Fを駆ったダビッド・フレティーネが総合3位に入りました。 ヤマハ自身も、WR450Fがダカールを含むラリー競技で実績を積んできたモデルとしてその歴史を紹介しています。 つまり2-Tracは非常にユニークな挑戦でしたが、WR450Fそのものにも長距離ラリーを戦える素性があったことが分かります。

速さだけではなく、デザインでも評価された

さらに少し意外なのが、WR450Fはレースの実績だけで評価されたモデルではないことです。 2013年、欧州仕様のWR450Fは世界的なデザイン賞である「Red Dot Design Award」のプロダクトデザイン部門を受賞しています。 ヤマハは、エンジンやサスペンションといったメカニカルな部分を強調したシャープなデザインも、このモデルの特徴として説明しています。 競技用エンデューロマシンが、デザインの世界でも評価されていたというのは、WR450Fのもうひとつの面白いところです。

2016 WR450Fでは、エンジンの前後まで逆転した

そして2016年モデルでは、WR450Fはさらに大きく姿を変えます。 欧州仕様のヤマハ公式資料で強調されているのが、 Reverse cylinder head with front facing intake という構造です。 一般的なレイアウトとは異なり、吸気をエンジン前方から取り入れ、排気を後方へ出すリバースシリンダーヘッドを採用。 シリンダー自体も後方へ傾けられています。 これはYZ450Fで培われたレイアウトをWR450Fへ展開したもので、ヤマハはマスの集中化と、扱いやすいリニアなトルク特性に寄与すると説明しています。

ガソリンタンクは、シートの下

リバースヘッドを採用した2016 WR450Fを見ると、もうひとつ面白いレイアウトがあります。 燃料タンクです。 2016年欧州仕様では燃料タンクをシート下に配置し、エアフィルターを車体上部へ配置しています。 ヤマハはこの構成もマスの集中化につながる設計として説明しています。 外から見るだけでは分かりにくいのですが、WR450Fは車体内部の配置そのものまで、オフロードでの操作性を考えて組み替えられているモデルです。

WR450Fは「YZ450Fにライトを付けたバイク」ではない

WR450Fには、YZ450Fから受け継いだレーシングテクノロジーがあります。 一方で2016年欧州仕様には、エンデューロ向けのワイドレシオ5速トランスミッション、18インチリアホイール、セルスターター、エンデューロ向けクラッチなどが採用されています。 モトクロッサーの性能をそのまま持ってくるのではなく、低速から高速までさまざまな地形を長時間走るために作り替える。 WR400Fの時代から続いてきた考え方が、ここにも見えてきます。

Mile One Garageの2015 WR450F

Mile One Garageでご紹介している車両は、2015年式Yamaha WR450Fの欧州仕様です。 2015年モデルは、YZ450F由来の449cc水冷4ストロークDOHCエンジン、前方排気5バルブシリンダーヘッド、ワイドレシオ5速ミッションを採用しています。欧州仕様のヤマハ公式資料では、装備重量123kg、燃料タンク容量7.5Lとされています。 当該車両は公道走行用の保安部品の標準装備に加え、ラリー競技やオフロード走行用の性能向上として北米向けフルパワーECU(燃調マッピング変更可)Tecnix社による前後サスペンションリバルビング・チューニング及び1インチローダウンによる足つき性向上、REKLUSE製スリッパ―クラッチ、ラジエーター電動FAN、IMS製12LビッグタンクをOPT装備(約60万円相当)その他標準補給部品もセットでの販売となります。 450cc単気筒4ストロークエンジンはパワフルかつ低速トルクがあり、オフロード初心者からベテランまで幅広い層で扱いやすく、大変お得な車両です。

WRのルーツをたどると、YZ400FをベースにしたWR400Fから、6日間のISDE、そして2輪駆動で挑んだダカールまでつながっていきます。 一見するとシンプルな450ccのオフロードマシン。 しかし、その背景にはヤマハが長年積み重ねてきたレースと技術開発の歴史があります。 それを知ってから眺めると、WR450Fというバイクは少し違って見えてきます。

参考資料

ヤマハ発動機「パリショーに出展する'98ヤマハ欧州向けニューモデル WR400F」

ヤマハ発動機「オフロードマニア 第5節 4ストモトクロッサーの衝撃」

ヤマハ発動機「エバーツ、ISDEでWR450Fを駆り優勝」

ヤマハ発動機「WR450F 2輪駆動がダカール・ラリーに出走」

Yamaha News「2-wheel-drive Yamaha is sensation of the 2004 Dakar rally」

ヤマハ発動機「2005ダカール・ラリー WR450F 2-Trac」

ヤマハ発動機「WR450F Red Dot Design Award 2013」

Yamaha Motor Europe「2016 WR450F」

写真:Marcu Bogdan Gabriel, “Sixth Generation WR450F”, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons. Source: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Sixth_Generation_WR450F.jpg License: https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/ Changes: None